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女優や歌手として活躍した清水由貴子さん(49)が4月20日、静岡県小山町の墓地で自殺した。翌日見つかるまで傍らには、車いすに座った認知症の母(78)が残されていた。芸能界から引退、母の介護を独身の身で引き受けていた清水さん。父の墓前で命を絶つまで笑顔を絶やさなかった。介護保険制度が始まって9年。その死は、独身者を含む家族が担う在宅介護の難しさを改めて浮き彫りにした。
東京・浅草寺に近い下町で育った。小学3年のころ、父が急死。体の弱い母が内職で清水さんと7歳下の妹を育てた。「ユキちゃんは窓を開けて、澄んだ歌声を響かせていた」。当時を知る人は振り返る。
「通学定期券で選考会場に行ける」。77年の歌手デビューのきっかけとなったテレビ番組「スター誕生!」の応募理由だ。弾き語りに使ったギターは、母が生活費を切りつめて買ってくれた。「家族を助けるため歌手になった。みんなの家を建てたい」。母への感謝を胸に身を粉にして働いた。東京都武蔵野市に一軒家を新築したのは94年のことだ。
「食事は?」「寝る時間だよ」「戸締まりは?」。仕事の合間に電話をかけては母を気遣った。持病の糖尿病を軽くしようと食事療法を研究した。
母は05年ごろから近くのデイサービス施設へ通い始めた。娘のヒット曲「お元気ですか」を歌った時期もあるが、次第に視力が悪化。外出が困難になり、清水さんは06年、所属事務所を辞めた。「介護しながら花を扱う仕事をしたい」と話していたが、実際は電話オペレーターのパートで介護と家計を支えた。引退後も連絡しあったデビュー当時からのマネジャー、富士原光男さん(56)は泣き言を聞いたことがない。ただ、こんなつぶやきが耳に残る。「車いすになったら大変だな」
昨年8月、母は自宅で転倒して骨折し、要介護度は「5」に。車いす生活が現実となり、認知症も進んだ。介護関係者は、ヘルパー派遣やショートステイの利用を勧めたが、清水さんは「私が見ます」とこだわった。月約36万円(1割は自己負担)の介護サービスのうち使ったのは25万円程度。同居の妹には「家のことは気にせず老後のために貯金しなさい」と、独りで抱え込んだ。
「負けず嫌いだから。引くに引けなくなったのかな」。富士原さんは思いやった。
独身の子供が親を介護する「シングル介護」が増えている。厚生労働省の調査によると、65歳以上がいる世帯のうち「親と未婚の子だけ」は、86年の11・1%から07年は17・7%になった。介護などで離職や転職する人も多く、総務省の就業構造基本調査では年間約14万4800人(06年10月~07年9月)に達する。
立命館大の津止正敏教授(地域福祉論)は「親の介護が影を落とし、結婚できない人が増えているのではないか」と指摘。「介護離職者は収入が減るのに介護支出が増え、貧困に直結する。介護者の支援プログラムが必要」と提言する。
厚労省の研究班が05年に実施した調査では、在宅介護者の4人に1人は抑うつ状態だった。介護問題に詳しいノンフィクション作家、沖藤典子さんは「介護保険には、思いを聞くなど介護者をケアする仕組みがない。追い詰められる人は大勢いる」と語る。
毎日新聞が報道した06~08年の介護殺人・無理心中(既遂)は97件。年平均(約32件)は介護保険導入前の99年(21件)を上回る。
「すぐ帰ってくるね」。先月20日、清水さんは妹に言い家を出た。通所介護の予約日だったという。JR御殿場駅からタクシーで冨士霊園へ。運転手に「往復で」と告げたが、降車の際は「時間がかかるので帰ってください」と言い直した。
現場に「母を連れて行きます」と書かれた遺書があった。だが、硫化水素を吸ったのは清水さんだけ。ともに人生を切り開いた母を道連れにすることをためらい、心は揺れ動いたのか。
「お花がきれいに咲いてるよ」。近所の女性は、自宅玄関前で、車いすの母にやさしく語りかける清水さんの姿が忘れられない。
■ことば
寝たきりや認知症などで日常生活に手助けが必要になった高齢者を社会全体で支える社会保障制度。00年4月にスタートした。市区町村が運営し、介護サービス費用の9割を給付する。40歳以上が保険料を払い、原則65歳以上がサービスを受ける。介護が必要かを示す要介護認定は最も軽い「要支援1」から、日常生活に介護が必要な最重度の「要介護5」まで7段階あり、利用限度額に差がある。少子高齢化の進展に伴い、介護保険の総費用(介護給付費と自己負担額の合計)は3・6兆円(00年度実績)から7・4兆円(08年度予算)に倍増し、利用者も約150万人から約380万人に増えた。
著者名/毎日jp 毎日新聞社
ニッポン密着:清水由貴子さん自殺 「シングル介護」悲劇 懸命に母支え、疲れ...
http://mainichi.jp/life/health/fukushi/news/20090504ddm041040117000c.html
最終アクセス2009年5月6日